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カリノテトラオドン  -Carinotetraodon-

 世界の熱帯域には淡水性のフグが生息している。いくつかの属に分けられており、そのうちの一つがカリノテトラオドン属 Carinotetraodon である。本属はインドからインドネシアにかけての東南アジアに分布しており、淡水フグの中でも小型種で構成されている分類群となっている。アクアリウムで人気なアベニーパファーもここに分類されている(これは正直なところ形態も生活史も本属他種とは離れているため、再検討による独立を望む)。カリノテトラオドンは非常に魅力的なフグで、私が魚の中で最も気に入っている属である。ここではボルネオに分布する3種について述べていく。
Carinotetraodon in Borneo
ボルネオアカメフグ

ボルネオアカメフグ

 Carinotetraodon borneensis Regan, 1902

​ マレーシア サラワク州に分布する。河口の広い河川の中流域メインに生息し、潮汐の影響を受ける範囲で見られる。標準体長 50 mm程度になり、オスの背鰭臀鰭と腹面は赤色を、尾鰭は青色を呈する。雌雄共に黄色を基調とし、頭に逆三角の模様を持つ。
 潮汐の影響、つまりは薄い塩分環境でよく見られるが、成魚の生存に塩分は必須ではなく純淡水で飼育できる。飼育に関しては化粧砂に石という海水水槽の様な環境で海水魚っぽく飼うのが個人的に好き。入荷はかなり稀。(2013, 2018)

Regan, C. T. 1902. On the classification of the fishes of the suborder Plectognathi; with notes and descriptions of new species from specimens in the British Museum collection. Proceedings of the Zoological Society of London, 1902:284-303, pls. 24-25.

カリノテトラオドン サリヴァトール

カリノテトラオドン  サリヴァトール

 Carinotetraodon salivator Lim & Kottelat, 1995

​ マレーシア サラワク州の北西部に分布する。河口の広い河川の中流域メインに生息し、ブラックウォーターでも見つかる。標準体長 40 mm程度になり、オスには顎下の縞模様と腹部に赤色紋が現れる。メスはごちゃっとした模様をしている。
 数メートルある川幅、砂から泥の底質、大きめの流木が沈んでいるような環境で見つかりやすい。飼育に関しては一例として化粧砂を薄く敷き、流木と落ち葉を沈めた環境とかが個人的にマッチしていると感じて好き。入荷は極めて稀。(2018)

Lim, K. K. P. and Kottelat, M. 1995. Carinotetraodon salivator, a New Species of Pufferfish from Sarawak, Malaysia (Teleostei: Tetraodontidae). Japanese Journal of Ichthyology, 41(4):359-365.

レッドテールアカメフグ

レッドテールアカメフグ

 Carinotetraodon irrubesco H. H. Tan, 1999

​ インドネシア 南スマトラ州東部や西カリマンタン州西部に分布する。サンバス川の中流域に生息していると思われる。標準体長 45 mm程度になり、オスの尾鰭は赤色を呈する。メスはごちゃっとした模様をしている。
 水深のある河川との記述があるが、クリプトなどの水草の生えた環境でも見られると推測する。飼育に関しては水草水槽なんかが個人的には好き。入荷は多くないが、たまに見られる上に一度にそこそこの数が入る。(2013, 2014, 2015, 2018)

Tan, H. H. 1999. A new species of Carinotetraodon from Sumatra and Borneo and validity of C. borneensis (Teleostei: Tetraodontidae). Ichthyological Exploration of Freshwaters, 10(4): 345-354.

カリノテトラオドン予測生息域図
Carinotetraodon salivator
Carinotetraodon borneensis
Carinotetraodon irrubesco
Estimated Distribution
Carinotetraodon salivator in Field
カリノテトラオドン サリヴァトール
カリノテトラオドン サリヴァトールの生息環境
 2016年・2017年・2018年とボルネオ(サラワク)でアカメフグ探しに挑んだ。3回の遠征で10近くのポイントに網を入れ、ようやく巡り会うことができた。ポイント情報は伏せる。見ることができたのはカリノテトラオドン サリヴァトール。環境としては上記の、数メートルある川幅、砂から泥の底質、大きめの流木が沈んでいるような環境そのものであった。透明度は高くないが低くもない。写真と動画で濁っているのは私が泥を舞い上げたから。ここで気になるのは、他に見られた魚種だろう。不思議なことに確認できる魚数そのものが少なかった。本ポイントも入ってしばらくは外れだと思うほどに何も見られなかった。魚種はサリヴァトールの他に2種。サヨリの一種Hemirhamphodon cf. kuekenthaliとヨウジウオの一種(橙色と黒色の縞模様)Microphis sp. ? であった。 もう少し本格的にフグ以外を探せばハゼやラスボラ、スネへあたりは見つかりそうな気もする。
Rearing of Carinotetraodon
ボルネオアカメフグ 20cm High
​ カリノテトラオドンは丈夫な魚であるため、飼育は容易である。用意する環境も特別なものは必要ない。しかし、注意する点はいくつかある。
 雌雄で激しく噛み合うことが多いため、分けて飼育することを推奨する。特にボルネオアカメフグは気性が荒い。この攻撃性は混泳魚にも向くため、単独飼育がベストである。苔取りのヌマエビや貝は大好物であるため、入れれば早い段階で消える。私が混泳を試したところ、小型のハゼやサヨリはまだ可能であると考えられるが、もし入れるのなら自己責任で。
 さらには水温にも注意する。 27度程度がベストである。20度でも飼育は可能だが、本属は白点病に罹りやすく、低水温だと危険が増す。
​ 餌は冷凍赤虫やクリル、慣れれば人工飼料も食べる。爬虫類用の生き餌各種もよく食べる。ハニーワームの食いつきはフグも凄い。
Life History of Carinotetraodon
 アベニーパファー Carinotetraodon travancoricusは純淡水の生活史を持つが、ボルネオの3種はそうではない。半両側回遊性の生活史を持つ。仔魚は非常に小型で、成長に海産の栄養素が必要であるため汽水域で過ごす。回遊の理由が栄養摂取であると推測できる理由としては、飼育下で淡水性の餌のみを与えると死滅することと、生息域が限定されていることである。一つ目は言わずもがな、生息域が限定されているということは稚魚期に海流に乗っていないことを示唆しているためである。海水域まで降りず、汽水域で目的が完結していると考えられる。汽水域でも海産の栄養素DHA・EPAなどを摂取することができる。アベニーの様な純淡水性への進化の途中にあるのではないかと推測する。仔稚魚はある程度成長すると川を遡上し、低塩分〜淡水域での生活を始める。一定のサイズまでは雌雄ともにメスの体色を呈するが、オスはだんだんと模様が変化していく。
 飼育下での繁殖は困難である。上記の通り、仔稚魚には塩分環境と動物プランクトンが必要となる。ヤシガニやシオマネキの幼生飼育を経験している身としてはアレをやらなきゃいけないんだろうな、、、と大変さが容易に想像つく。
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